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特別インタビュー

留学に『幻想』を抱くべきではない ~英語が苦手な僕がハーバード大学へ~

Teach For Japan代表理事 松田 悠介

日本大学を卒業後、体育教師として都内の中高一貫校に2年間勤務。その後、自身の手で学校を創りたい、という思いからリーダーシップとマネジメントを学ぶためにハーバード教育大学院教育リーダーシップ専攻に進学し、修士号を取得する。特定非営利活動法人Teach For Japanの代表理事。

『目的意識』のない留学は時間とお金の無駄になってしまう!!

「そもそも留学に目的意識がなかったら意味がありません。時間とお金の無駄になってしまいます。」
私が留学することのメリットを聞くと開口一番、松田さんはこう言ってのけた。
「私が海外の大学院に留学したのは、自分の学校を創りたかったから。そのためにはリーダーシップやマネジメントを学ぶ必要があった。だから、留学を決意したんです。」
大学院に進学することを決めて、松田さんがまず行ったのは『国内の大学院を調べること』だった。松田さんにとって大学院留学はあくまで自分の目的を達成するための手段でしかなかったのである。その後、国内の大学院では自分が学びたい内容を十分に深めることができないと感じた松田さんは、次に海外の大学院ランキングを参考に上位20位の大学院をピックアップしてそれぞれのカリキュラムを全て調べあげた。各大学院に自分でメールを送り、シラバスを取り寄せ、教授のプロフィールから著作、論文まで全て読みこんだうえでのハーバード教育大学院への留学決意だったのである。
松田さんの留学を考える学生に対する熱い思いはまだまだ止まらない。
「学部留学でも大学院留学でも、留学することを目的化するのはダメだと思うんですよね。ただ単に英語を学びたいということなら留学する必要はないんですよ。スカイプ英会話とかで一日30分、毎日話して一か月一万円。年間で十数万円です。これが留学するとなると年間数百万円もかかります。だから、英語を学ぶのが目的なら、留学をすることが最善の解だとは思っていません。」
「正直、留学に行かなければ手に入れられないものなんて、そう多くはないんですよ。留学すれば『何か』が得られるというのは幻想です。そういう人はきっと何も考えてないんですよ。」
私は耳を疑った。留学をすれば自分の中で何かが変わるかもしれない、こう感じている学生にとっては衝撃の一言なはずだ。
「本当に日本で学べないのか、本当に今の大学で学べないのか、必死に考えた結果生まれるものこそが、留学をしないといけない理由なんですよね。」
海外留学は、価値観が全く異なる学生と一緒に多様性の中で学ぶ経験を得られるという点ではいい経験なのかもしれない。しかし、『目的意識』がはっきりしていないと留学自体が目的になってしまい、あまり意味のないものになるだけだと痛感させられた。

なぜ留学先で真剣に学ばないのか??―留学=自分への投資―

松田さんは学部時代の授業料・大学院留学にかかった費用を奨学金などで全て自分で支払っている。つまり、莫大な借金をしてでも学びを得るために海外に行っている。松田さんのその強い思いがインタビューを通してひしひしと伝わってくる。
「日本の大きな欠点は、留学や大学の費用を親や国に払ってもらっていること。自分で払ってないんだよね。だから、自分で費用を払っている外国の学生と比べて真剣に学ばない。本来、自分で学部から大学院までの費用を賄うことは一種の自分自身への投資なんです。だからこそ、真剣に学ぶんです。」
松田さんは留学期間中はほぼずっと図書館にこもって、授業の予習・復習に時間をしていたという。
「授業以外で楽しかったことなんてないですよ。」この一言から目の前の授業に全力で取り組む松田さんの姿勢が真摯に感じられた。
今では留学する学生に対する政府の補助も手厚くなってきている。しかし、それらの費用は税金で賄われている面も多い。『自分の留学費用は税金からも支払われている。』この自覚を持っている学生は一体どれくらいいるのだろうか。高い費用をかけて行く留学は自分自身に対する投資だという意識が高かったからこそ、松田さんはハーバード教育大学院での1年という短い留学期間でも充実したものにできたのかもしれない。

転機となった『学級崩壊の現場』

日本大学を卒業した後、体育教師として学校に勤務していた松田さんがハーバード大学への留学を決意した背景には学校教育現場で実際に見た『学級崩壊』が大きく影響している。生徒が授業に全く集中していない状況に対して、生徒にのみ責任を押し付けて教師自身が変わろうとしていない日本の教育現場に松田さんは疑問を抱いていた。そこで、『自分の理想とする学校をゼロから創り上げたい』という思いからアメリカ留学を決意したのである。

ハーバード合格の決めてとなった『自己推薦書』

海外留学を目指す際にはToeflのスコアが必須となる。英語が得意ではなかった松田さんは、まずは英語力の向上に全力を注いだ。単語力をつけるために隙間時間を使ってひたすら単語を暗記し、スピーキング力は毎週イングリッシュパブに通って英語を話す機会を作ることでカバーしていった。こんなにも努力していてもToeflのスコアは伸び悩み、胃痙攣で入院したこともあった。実際に松田さんは、ハーバード大学院の合格最低スコアを下回るスコアで出願することとなってしまった。しかし、その後松田さんの手元にハーバードからの合格通知が届くのである。一体なぜか。松田さんがいうには、『自己推薦書』の存在が大きく影響しているという。海外の大学の場合、Toeflのスコアだけでなくパーソナルステイトメントと呼ばれる自己推薦書も必須となる。松田さんは自分がなぜ留学したいのか、留学先で何をしたいのか、を率直に自己推薦書に書き綴った。その真剣な思いが試験官にも届いたのか、松田さんはハーバード大学院に合格することができたのである。

『劣等感』しか感じていなかった自分を救ったインターンシッププロジェクト

留学する学生にとって大きな壁となりうる『英語力』。授業に全力を注いでいた松田さん自身も、語学力の壁には悩まされていた。
「留学すると、劣等感満載なんです。特に、ハーバード大学の学生はみんなとても頭がいいし、英語が第二言語の自分が母国語でディスカッションしている人たちの輪に入るのは難しいんです。しかし、議論に参加できなかったら存在意義がないんですよ。それに、自分自身も何も吸収するものがない。きちんと予習復習をしても対等に渡り合うのは到底無理なんです。」
このように語学力の面では劣等感を感じる一方で、日本人の強みも同時に発見することができたという。
「僕は、同じハーバードの学生6名ほどで高校に行って経営マネジメントに携わるというインターンをやっていました。このプロジェクトを通して、僕たち日本人は分析・統計といった側面において非常に優れていることが発見できたんです。その後は、自分の強みを生かしてプロジェクトに関わっていくことができました。だから、自分の強みを発見することができたという点においてはとてもいい経験でした。このプロジェクトがなかったら、僕はずっと劣等感を感じたままだったと思う。」
世界中の多様な価値観と強みを持つ学生らと交流することは、自分の強みを発見できるいい機会なのかもしれない。

『学びの深さ』それが大学院留学に求めたこと

アメリカの大学院は、アカデミアの世界とプロフェッショナルの世界の2つに分かれている。アカデミアは博士課程まで進学して大学教授や研究職につく人が中心である一方、プロフェッショナルの世界では学びを実生活に活かすことを目的としている。松田さんが留学したハーバード教育大学院は、プロフェッショナルの方にあたる。
「プロフェッショナルスクールのいい点は職務経歴が必須であるところ。ハーバードの場合は職務経験が3年程求められているんです。これがすごくいい。学部を出た人が大学院で学んでも学びに『深さ』がないんです。大学院を自分のキャリア・仕事に活かしていきたいと考えているならば、そのままマスターに行くのはダメですよ。実務を経験しているからこそ、理論を批判的に見ることができるんです。」
教授主体ではなく生徒主体で繰り広げられるディスカッションの数々。それらを通して身につく『理論では学べない知恵』、これこそが深い学びなのだと松田さんは語る。

Teach For Japan立ち上げのきっかけとなったTeach For Americaとの出会い

海外に留学した松田さんが帰国後に立ち上げたTeach For Japanという組織を知っているだろうか。Teach For Japanは、日本における教育格差の改善に取り組む団体である。Teach For Japanが応募者の中から独自に選抜した人材を、十分に研修を行ったうえで2年間現場となる学校へと派遣し子供たちの学力や学習意識の向上に全力で取り組むプログラムを提供している。現在では様々なメディアに取り上げられ、一躍その存在が世間にも広く知られることとなった。
自分で学校を創りたい、と思って留学した松田さんをその後のTeach For Japan立ち上げへと導く転機となる出来事は何だったのだろうか。直接的に大きな影響を及ぼしたのは、Teach For Americaの創設者であるウェンディ・コップとの出会いだ。社会全体を巻き込み、教育格差の改善に努める団体の理念に感銘を受け、松田さんはTeach For Americaの日本版の構想を練り始めたのである。もしも、Teach For Americaとの出会いがあと数か月でも遅れていたら、1年という短い留学期間の間に松田さんが日本版の構想を練ることはできなかったかもしれない。留学先での偶然の出会いが松田さんの今後の人生の指針をもたらしたのである。

インタビュー実施日:2015/11/17
インタビュー実施場所:Teach For Japan 御成門オフィス

【編集後記】

インタビューで訪れたTeach For Japanの御成門オフィス。そこには松田さんの著作をはじめとして、たくさんの教育についての専門書が並んでいた。全力を尽くして一人ひとりの子供にとっての最善の教育を提供する、Teach For Japanの理念を感じたオフィスがとても印象的だった。
インタビューの最後に、松田さんが留学中に学んでいたリーダーシップのことや自身が立ち上げた認定NPO法人Teach For Japanについて話しを振ってみた。すると、これまでとはうって変わって声のトーンが変わり、すごい勢いで話し始めたのだ。
「リーダーシップは、経験を通してでしか身につかないんです。経験を通して得た失敗・成功を繰り返して自分を知ることができ、さらにその先の共有ビジョンが明確になってくる。いいリーダーは、周囲の人々を共通のビジョンへと導くことができる人なんです。そもそも自分を導けない人は他人を導けませんから。」
あぁ、この人は本当に留学で自分のやりたいことを最大限やりきってきたんだなと感じた瞬間だった。

私自身、今の大学生の中で一体どれくらいの割合が明確な目標を持って留学を考えているのか疑問に思う。松田さんのインタビューを通して、私も留学を経て見出したビジョンを活き活きと語れるような留学にしたいと思うようになった。そのためにも、まずはもう一度自分の留学計画を見直して『目的意識』をはっきりさせるところから始めようと思う。

文責:
萩原遥

インタビュー:
白石彩(明治大学2年)
萩原遥(明治大学1年)