インタビュー
恐れずに留学すること。
梅津秋夫氏
2020年10月20日 366ページビュー 6年以上 アルゼンチン ブラジル ベネズエラ メキシコ ロシア「なぜ出張/出向しようと思ったのですか?出張/出向にいたる経緯は?」
一言で言ってしまえば業務命令でしょうが、自分的にも海外に興味があったし、新規事業に関しては名声を残すか汚名を残すかの不安はありましたが自分が今まで積み重ねた経験を基に自分の理想と思える事、当然ローカルメンバーとの合意は必須ですが自分がたずさわった案を実現させて実際に出来上がった姿をみてみたい。また、現地を学ぶことにより何かフィードバック出来ることがあれば探して見たい。という所ですかね。
日本人は日本が一番進んでいると思いがちと思いますが海外事業体にも日本より良く考えている部分もあります。例えば日本人同士なら言わなくても阿吽の呼吸で通じる所があります。話題のワードで言えば「忖度」というのでしょうか。
でも海外では通用しない。きちんと説明し納得してくれないと動かない。きちんと説明しないことでメンバーがミスを起こすと説明責任を問われる。
日本もそんな方向に向かっていると思えるし、日本の10年後の姿(後退した姿)を海外に見ることができると思っていてそんな姿を若い人たちに伝えれば。と思っています。
「出張/出向準備で苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
特にありません。強いて言えば、引越しでしょうか。
当然、引越し業者との打ち合わせは行いますが、自分が生活する上で必要な物を送りたいのですが通関の関係で船では送れない物、飛行機では送れない物を吟味する必要があります。アルゼンチンにおいては船便で食料品は送れませんし、薬品も送れません。食糧品、薬品は手持ちで持ち込みます。
総じてどの国でも薬品は違法薬物ではない事の証明を求められることもありますので常備薬については事前に医師に相談し証明書を一緒に持参した方がいいと思います。アルゼンチンへの船便、航空便で送った物においての通関は通関事務所に赴いて通関担当職員立会の基に持ち込んだものを開封します。その時に通関に対して違法な物が見つかればペナルティを取られるか搾取されます。最悪、裁判になる可能性もあります。また、帰国する際の持ち出しは持ち込んだ時と同程度の重量の物品を持ち出す決まりになっています。
これは違法な持ち込み、持ち出しを抑制するためです。過去に中国人が短期の滞在にも関わらずTシャツ700枚を持ち込み(明らかに販売目的)摘発された事例もあります。また、アルゼンチンから相当数の特産品を持ち出そうとして(これも明らかに販売目的)摘発された事例もあります。そこで強化策として持ち込んだ重量と持ち出す重量を10%以内に抑える決まりが出来たと聞いています。アルゼンチンはワインも有名で世界第5番目のワイン生産地ですが、1船便あたり20本の制限があります。これ以上持ち出すとこれも違反の対象になります。
「出張/出向中に苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
まず第1に言葉の壁とコミュニケーションでしょうか。みなさんご存知とは思いますが南米はブラジル以外スペイン語になります。ブラジルはポルトガル語になります。ただ、スペイン語といってもスペイン本国とアルゼンチンのスペイン語は若干違いますし、同じスペイン語圏のペルーやチリやメキシコも本来のスペイン語とは違っています。日本で言う標準語と方言のような関係です。
私が一番難しいと思ったのは動詞の変化です。動詞には規則動詞と不規則動詞があります。ここでは不規則動詞の1例を示します。例えば「行く」Ir(イール)という動詞があります。これを人称別にみると現在動詞では、私:VOY(ボイ)、
貴方・彼・彼女:VA(バ)、私たち:VAMOS(バモス) これは皆さんも聞いた事があるかと思います。昔ホンダの車で同名のトラックがありました。貴方たち:VAN(バン)、彼たち・彼女たち:VAN(バン)。
これが「行きたい」になると私:Qeiro ir Restaurante(ケーロ イール ア レスタウランテ:レストランに行きたい。)となり、動詞は原型となるイールを使います。また、過去形になると私:FUI(フイ) 貴方:FUE(フエ)になります。これは理屈なしに覚える必要があります。一般的に子供の方が覚えるのが早いです。大人はすぐ何でこうなる?と考えますが、子供はそんな事にこだわらず覚えるようで覚えが早いようです。これは私の感想です。ただ、覚えた言葉は積極的に発していきましょう。
現地の人は割と真剣に聞いてくれます。話をしないほうが不気味に思われます。まずは挨拶から。挨拶はとても大事です。日本人は朝出勤で同じ職場の人と会っても挨拶しない人も見受けられますが、海外では知らない人でも必ず挨拶します。これは相手を気遣うとともに自分は怪しい人物ではないですよ、よろしく。みたいな意味合いを持っています。スペイン語で、おはようございます。はBuenos dias(ブエノス:良い ディアス:朝)です。この後に Como esta (コモ エスタ:元気?調子はどう?)を付けるのが一般的です。元々Comoは「何?」、Estaは「いる」という意味ですが。
第2はパワーハラスメントです。
これは日本以上に気を付ける必要があります。
当然、喧嘩沙汰はご法度ですが、ある特定の人をにらみつけてもあいつは俺に威圧的な行動を取った。と訴えられる可能性があります。もし訴えられた場合は日本に強制送還になる可能性もあります。それと、現地人はよくスラング語を使います。例えばアルゼンチンには「ボルード」というスラング語があります。これは直訳すると男性の局所を示しボールが2個という意味です。ですが総じて日本で言う「あいつは馬鹿か」とか「アホウか」と」いった意味で使われます。
また、メキシコでは「Simon:シモン」という言葉があります。Siは日本でいう「はい」ですが、シモンはSiですが「いいよ、いいよ。」みたいな意味で使われます。よく現地人はこういったスラング語を得意げに教えてくれる場合があります。面白がって使いたくなる場合もありますが、この人には使ってもいいか。なんて思わずに極力避けた方がいいです。日本人同士でも初対面の人と打ち解けるのには時間がかかります。海外はそれ以上に時間が掛かると思った方がいいです。スラング語以外は構える必要はありません。積極的に話し掛けましょう。
第3はセクシャルハラスメントです。
海外では同性間でもセクハラは存在します。同じ男性でもあいつは太っている。とか、臭い。とか、肌の色が黒い。背が低いとか中傷すると訴えられる可能性があります。また、女性はセクシーな服装な人がほとんどです。パンツは体にピッタリで下着の線が見えるようなスキニーを着ている人がほとんどだし、ホットパンツも日本よりもかなり短めです。じっと見つめていると訴えられかねません。海岸での水着姿はよりセクシーです。サングラスの着用をお勧めします。
ハグにも注意しましょう。海外ではよくハグをします。旅番組でもよく見られる光景ですが、友達になれば問題ないですが、よく知らない相手にはハグを求めたりしない方がいいです。相手からハグを求めてくるまで待ちましょう。いきなりハグを求めると抱きついてきた。と取られかねません。ハグ以外にも体の接触は極力避けた方がいいです。もし接触してしまったら、現地語で「ごめんなさい」位、言っといた方が無難です。
第4は飲酒です。
日本人は飲みすぎて道路で吐いている人、大声で騒いでいる人、酔い潰れて道路で寝ている人などを見かけますが、海外では見かけませんでした。もちろん、道路で寝ていると襲われるというのもありますが、他の人の迷惑にならないように気を使っています。海外では飲酒運転を認めている国もあるようで、運転に支障のないようにコントロールしている人がほとんどです。(アルゼンチンでも、メキシコでも、ドイツでも少量の飲酒運転は認められているようです。)
海外で飲む機会があると思いますが、日本以上に相手に飲酒を勧めないようにしましょう。また、酩酊しないように水を飲みながらの飲酒をお勧めします。
ワインでも12度以上あるし、カクテルでも40度以上のアルコールを使っているものがほとんどです。メキシコにおいてはビールでも12度以上あるビールも存在します。飲みすぎて日本人はノーコントロールと言われないようにしたいものです。
第5は食事のマナーです。
食事はフォークとナイフを使って食事をします。基本右手でナイフ、左手でフォークを使って食事します。事前に行く国のマナーを調査することもお勧めしますが、不安な場合はローカルメンバーの食事風景を観察することもお勧めします。それと気をつけたいのは食事で食べ物をすすること。ヌードルハラスメントという言葉があります。音を立てて食べ物をすすると周りの人が不快に思います。時には睨まれることもあります。なるべくすすらないように気をつけた方がいいと思います。スパゲティは一口で食べられる程度に丸めて食べる。とか。
第6は法令遵守です。
軽く見られがちですが、これが一番大事です。行った国の法律を守ることは当然ですが、日本国民として行くならば行った先でも日本の法律で裁かれます。例えばアルゼンチンにはFuifuiという観光地がありますが、ここは標高4000mを超えます。当然、高山病の危険性があります。高山病での頭痛を抑えるために現地の人はコカの葉を口に含んで観光したりします。コカの葉はコカインの原料です。現地でよかれと思って摂取したコカの葉の成分が帰国時に検出された場合、逮捕される可能性があります。またコカ茶というものもあります。葉っぱが入っていないコカ茶ならいいですが、葉っぱ(固形物)が入っている物を帰国時持ち込むと逮捕される可能性があります。
「出張/出向前に不安だったことは?また、実際に出張/出向に行ったら、どうでしたか?」
不安だったことはやはり生活面でしょうか。細かいところで言えば、
買い物はどうすればいいの?髪を切ってもらうにはどこに行けばいいの?どう説明すればいい?お腹が痛くなったらどうすればいい?友達はできるだろうか?現地の人とうまく接触できるだろうか?襲われたらどうしたらいい?経由地の空港でうまく乗り継ぎできるだろうか?飛行機がキャンセルになったらどうする?現地の生活に馴染めるだろうか?閉じこもりにならないだろうか?など暗く考えたらきりがないですね。実際どうだったか
国、人種は違ってもやっぱり同じ人間だな。というのが実感ですね。
上記のような不安は自分の知っている言葉(単語)を並べて言えば現地の人は真剣に教えてくれようとしてくれました。細かな所はわからなくても時には絵を描いて場所を教えてくれましたし、床屋さんとかでの髪型など文章を書いてくれて、行った先でこれを見せろ。とか教えてくれたりしました。元々アルゼンチンもメキシコもクリスチャンの国なので困っている人は助けてあげなさい。という文化が根付いているようで助かりました。
今日も近くのスーパーに買い物に行きましたが、黒胡椒を探しているとなにか困っているみたいと思った店員さんがやってきて黒胡椒(pimienta negra)はこれですよ。と取ってくれました。よく外国人が日本にきて親切にしてもらっている。みたいな番組がありますが、程度は違っても同じような国はありますね。ドイツにも行ったことがあるのですが、フランクフルトからザールブリュッケンという街まで電車で移動しなければならなくて時刻表の前でうろうろしていたら駅の関係者がやってきてどこまで行きたいの?と聞いてきたのでザールブリュッケンとつたない言葉で伝えたらホームまで連れてってくれました。
やっぱり、自分から拒絶することではなく、困ったら相談することが問題解決の早道ですね。というのが実感です。色々なニュースで世界各国の暗黒面を放映していますが、どこの国に行っても親切な人はいます。
「出張/出向で得たものは何ですか?」
一番は友達でしょうか。今でも相談メールを送信すると気兼ねなく答えてくれますし、近況など連絡してくれます。何か地球の裏側に友達がいるって嬉しく思いますね。フェイスブックで彼らの近況も知ることもできるし、何か一緒に苦労した事が思い出されて、あの時あんなに頑張れたのだから、今やっている事もきっと乗り越えられる。という根拠のない自信が湧いてきます。たまに Espero que bien(帰ってこい。待っている)というメールを送ってくれますが、なかなか行けなくて残念です。
「出張/出向が帰国後のキャリアや人生にどう影響しましたか?」
やっぱり一番は自分が住んでいる環境を受け入れるという事でしょうか。よく海外に行った人からあの国の日本食は食べられたものじゃない。とか、便器が汚い・温水じゃない。とか、道路がガタガタだとか、日本のコンビニみたいに食品がスーパーに揃ってない。とか、日本語のテレビ放送が無いとか、あいつらは馬鹿だ、土人だ。とか、お小言聞きます。でもそれに対して私が思うのは、無い物ねだりをしてもしょうがないし、日本の狭い環境から脱却できてないだけなのじゃないの。と思ってしまいます。
私自身も生まれは山形県ですが、愛知県に移住した時に色々な環境の違いに戸惑ったことがあります。今は山形と愛知の関係から日本と海外の関係に変わっただけだと思っています。そう考えると日本に固執する意味がなくて、いろんな経験を受け入れることによっていろんな幸せ、楽しみが生まれてくるような気がします。
「今後留学を目指す学生へアドバイスをください」
恐れずに留学すべきだと思います。そして友達を見つけてください。きっとこれからの人生の励みになると思います。実質的な数値評価に現れなくてもあの時あの国に留学して言葉の壁にぶつかっただとか、食べ物でお腹を壊して苦しんだとか、電車の乗り方が分からなくてうろうろしたとか、自分の知らない日本の文化に対して留学先の友達に聞かれて答えられなくて苦しんだとか、チップ制の国に行っていつどんなサービスを受けたらチップをあげればいいの、いくらあげればいいの、と悩んだとか、道端に立っていたら知らないおばさんから道を尋ねられて苦しんだとか、学校の勉強以外でも色々な経験をできることはたくさんあると思います。いろんな経験をして自分の楽しみを見つけてください。
インタビュー実施日:2019/06/17
インタビューアーからのコメント
「印象に残った言葉」
恐れずに留学すること。
「お話を聞いて、感じたこと、学んだこと」
今回、自分の叔父さんにインタビューをさせて頂き、自分の身内が地球の裏側で活躍をしていることが、非常に誇りに思えました。自分は「留学」ということに対してただその国の言葉や文化を学びに行くものと思っていましたが、「留学」というのはそれだけでなく、人生としての経験の1つであり、そこでの苦労がその後のキャリアや人生に必ず活きてくる。ということを感じ取ることができました。
自分はまだ日本という狭い世界の中で生きていて、まだまだ知らない世界があります。「留学」を通して色々な経験を積んでいきたいと思いました。
インタビューアー:藤城裕大(経済学部 経済学科 2学年)