インタビュー
「仕事」とは本来楽しく和気藹々とすることが本質であるのかもしれない。
上醉尾健三氏
2020年10月19日 153ページビュー 3カ月以上 ネパール「なぜ海外勤務しようと思ったのですか?海外勤務にいたる経緯は?」
海外勤務は会社の命令で、技術者(電工)が必要だったため海外勤務に行くことになりました。
経緯としては、日本の海外支援事業としてネパールに初めての国営ラジオ局を新設するプロジェクトで、ラジオ塔の建て込み工事を親会社が行うことになり、親会社の協力会社として自社が選ばれて、技術者(電工)として海外勤務することになりました。
「海外勤務準備で苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
ネパールでは風呂に入る習慣が無いので、沸かした少ないお湯で全身を洗わなければならない状況であると聞き、ボデイソープ、シャンプー、リンスが一緒になった製品を準備しました。
また、現地の米でも食べられるようにインスタントのお茶漬けと味噌汁を用意しました。
「海外勤務中に苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
現地の作業員と一緒に作業を行いましたが、言葉が通じなかった事で安全確認の不備が無いか再度、自分の目で確認しなければならなかったです。ラジオ塔を支える支線など安全点検が出来ないとラジオ塔が倒壊して自分達の命に関わることだったので特に注意しました。
また、国の大半がヒンドゥー教で、牛は神様として奉られており牛を殺せば死刑とされていました。私が車の運転をするときは、特に牛に注意して運転を行いました。
但し、人間をひき殺せば村人にリンチにある可能性があるから一旦逃げて、そのあと警察が来てから、親族に日本円で10万円渡せば、喜んで解決すると聞き、改めて日本との貧富の差を痛感しました。
「海外勤務前に不安だったことは?また、実際に海外勤務に行ったら、どうでしたか?」
はじめは言葉が通じず、コミュニケーション不足になりやすくなってしまうと思っていましたが、日本語で話していくうちに現地の人も少しずつ覚えてくれて、工事には支障がなくコミュニケーションが取れるようになりました。
現地の人と日本の仕事のやり方の相違があり、その日暮らしの考えから現地の作業員はなかなか仕事をしてくれず工事が進まないことも多々ありましたが、自分達のやり方を教えたり指導したりすることで、少しずつ日本のやり方を覚え工事を完工することが出来ました。
「海外勤務で得たものは何ですか?」
まず一つは、ラジオ塔の塔上で自分達と一緒に仕事をした現地の仲間が出来たことです。二つ目は、日本という国を外から見聞することが出来たことです。例えば、勤務している時期は湾岸戦争が始まった頃でした。
日本にいる人々は、大半がイラクのフセインが「悪」で、クウェートを支援するアメリカを主とする多国籍軍が「正義」だと認識していたと思います。
しかし、ネパールの人々はフセインを支持していて、ネパール国内で戦争に対しての暴動があった時には「Yankee go home」と叫びながらアメリカに抗議をしていました。その時は、なぜこのようなことしているのだろうと疑問に思いましたが、日本に帰国してから戦争の事を調べてみて初めて詳細を知り、アメリカは「正義」という固定観念は覆されました。
私はこの経験を通して、日本は核を持たない国として中立な立場を守るべきであると強く感じました。
「海外勤務が帰国後のキャリアや人生にどう影響しましたか?」
私は帰国後、いかに日本が裕福な暮らしをしているかということを痛感しました。コンビニのプラスチック容器のゴミはネパールでは高級な食器として使うことができるため、捨てる度にネパールの人たちにこれをあげれば喜ぶだろうと思い、物のありがたみを実感することが多くなりました。
ネパールでは女性、子供が働くことが多く、男達は町で賭け事などして遊んでいるのを良く見かけました。そこでは女性達は楽しそうに話しをしながら仕事をしていました。その光景を見て、現代の日本人の仕事を考えてみたときに、日本では安全第一に効率良く日々向上しながら生産性を高めていくことを目標にしていますが、昔は日本も生産性に関係無くのんびり仕事を楽しみながら行っていたのではないかと考え始めました。
現在日本では、管理された社会の中で生産性向上を求め、せかせかと働く現状がありますが、「仕事」とは本来、楽しく和気藹々することが本質なのかもしれないと強く感じました。
「今後海外体験を目指す学生へアドバイスをください」
あまり整備されていない国や危険のリスクが高い場所に行ってみたいと考えている人もいるかもしれません。
私個人の考えとしては、日本国内にいても1時間に一人の割合ぐらいで交通事故により亡くなっている現状を考えると、世界中どこにいてもリスクは同じようにあります。
但し、国によって言語・思想・宗教など違いがあるので、その国についての知識を蓄え理解し、その国のルールを守る事が自分の身を守る術だと思います。また、表通りにある観光地の華やかな部分だけを体感するだけでなく、裏通りにある人々が生活している汚い部分まで見て体験して、見聞を広げることが大事だと思います。
インタビュー実施日:2019/06/15
インタビューアーからのコメント
「印象に残った言葉」
「仕事」とは本来楽しく和気藹々とすることが本質であるのかもしれない。
「お話を聞いて、感じたこと、学んだこと」
主な留学先は先進国のアメリカであったり、イギリスであったりしますが、あまりスポットの当たっていない発展途上国での留学はとても興味深いことに気づきました。最先端の教育や技術を学ぶことはもちろん私たちにとって大きな収穫になるとは思いますが、途上国の中での問題などを通して見える世界の姿や日本の姿もまたとても大きなものなのではないかと感じました。
また、整備されていない国や、先進国に比べ危険とされている国などでの生活は先進国に比べ不安を感じますが、学びたいことがあるなら先進国にせよ途上国にせよ、ルールを事前に調べ理解し守っていく必要性を感じました。
インタビューアー:上醉尾真裕(国際学部 国際地域学科 1学年)