インタビュー
自分の目で確かめることが大事
2018年12月13日 1,620ページビュー 1年以上 ドイツ 大学「なぜ留学しようと思ったのですか?留学にいたる経緯は?」
日本でのドイツ法学の紹介の仕方に矛盾があったので、実際のところを確かめたいと思った。
大学に就職して4年経つと留学をすることができる制度があったので、その制度を積極的に利用した。
「留学準備で苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
留学準備で苦労したことは、健康保険についてである。海外には、日本のような国民健康保険のような制度がないため、万一疾病に罹患したことを考えると、非常に不安であった。そのための保険の手続きには苦労した。
定宿の確保も苦労した。先に留学していた人たちから聞いて、実際に現地に到着してから、2週間から1月くらいのホテル住まいを覚悟していた。しかし留学半年前に準備として事前に訪問したところ、先に現地に留学していた人が間に入り、大学の研究者寮を紹介し、手続きを手助けしてくれたので、円滑に研究者寮の確保ができた。
「留学中に苦労したこと、工夫したことは何ですか?」
ドイツ語で資料を読むことができるが、会話はあまりできなかった。そのため、「はい」、「いいえ」で答えられるように質問を用意するように工夫していた。その後に、解説されて十分に理解することができなくても「はい」、「いいえ」さえ分かっていれば質問の目的が達成されるからだ。
日常会話では、決まり文句も何度か聞いているうちに、どのような単語を使っているのかが分かるようになったので、定型的な会話を何度も続けることによって耳が慣れるようにした。
ドイツの商店は、駅のキヨスク等を除いて、土日に店が閉まってしまうため、平日に必要なものは準備しておく工夫をしていた。またキリスト教関連の祝日にも、店が閉まる(それぞれの祝日も、現地の季節感が現れているが)。
家族を連れての留学であったため、幼い娘(質問者)が風邪を引かないように気をつけていた。娘が高温の発熱を伴う風邪に罹患したとき、症状を説明する単語が外国人にとって、馴染みのない、使用頻度も低い単語であった。(例:扁桃腺をドイツ語でスムーズに伝えることができない)そのため、身振り手振りの工夫、ドイツ語・英語・フランス語の知っている単語を繰り出して、でどうにか症状を伝えることで診察をしてもらった。
「留学前に不安だったことは?また、実際に留学に行ったら、どうでしたか?」
ヨーロッパで活躍するオペラ歌手の岡村喬生さんが空港で、アジア人だからという理由で差別的対応を受けた経験を知り、不安に思った。ドイツには、トルコの移民が多く、彼らに会うと、表情から何を考えているのか分からないと感じた。その相手の気持ちが分からないことで不安になり、差別的対応に至ってしまうのではないかと感じられた。おそらくドイツ人が日本人を見る目も同じであろう。ドイツは第二次世界大戦の反省もあるのか、倫理的規範はしっかりしていた。そのため、人種を分け隔てなく手助けをしてくれたことが、日常的にあったが、後述のようにイタリア人のように心から人助けをしてくれているかは、疑問に思う。
「留学で得たものは何ですか?」
日本で知っていたことと、全然違うことがあった。ドイツでは自然環境の保全に積極的であるとは知っていた。ビンやペットボトルなどがスーパーで高額で買い取られていた。政策を達成するために利益で誘導することが実際に行われているのを見ると、ドイツ風の改善策を感じることができた。
ドイツではイタリアやフランスのテレビ番組を見ることができた。また、その二国に旅行に行くことがあり、ベビーカーで歩いていると人々の心に触れられる経験ができた。それらのことからドイツは、倫理的な観点から手助けをし、冷静である。イタリアは、心から手助けをし、良くも悪くも感情を表に出し、秩序があまりない。フランスは、手伝うことはなく、プライドが高く、自分本位である。実際に行くことで、そのように感じることができた。社会、文化、風土がその地域の人間関係の完成というものに強く影響をするとか感じた。
「留学が帰国後のキャリアや人生にどう影響しましたか?」
他人がどう言おうと自分の目で確かめることが大切であることを学んだ。学界の趨勢に影響されることなく、自立した研究態度を確立できたと思う。
異文化に接したことで、それぞれの文化の中で、歴史的背景を含む完結した合理性・コードが存在する。表面上の異文化の差を本格的に認識しようと思うのなら、その背後にある社会的な歴史関係をおさえる重要性を感じる。その重要性が、その文化の学問にどのように影響を及ぼすかということを意識しながら研究することができるようになった。
また先ほど述べた異文化内の異文化に接することを通じて、文化的な寛容性が養われたと思う。
「今後留学を目指す学生へアドバイスをください」
留学に行く前に、行き先の国の歴史、地理、文学を学んでいかないと、興味のきっかけを大きく失うことになる。そのため、事前学習がとても大事であり、そうすることが礼儀である。また、相手の国の人を喜ばせ、コミュニケーションが生まれるきっかけにもなる。
そのような事前学習を不要とし、新鮮な印象が大切だと主張する見解もある。しかし、ひとつの名所・旧跡を実際に見るという行為は同じであるが、そこに込められた歴史的意義を知って見るのと、知らずに見るのでは、大きな違いがある。このような態度は、現地での好奇心をさらに強める効果があると思われる。事前学習は、好奇心の種子であると心得てほしい。
インタビュー実施日:2018/06/24
インタビューアーからのコメント
「印象に残った言葉」
「自分の目で確かめることが大事」
以前、父に同じ言葉を言われたことがある。私が高校一年生の頃、夏季のカナダ留学を両親に相談したときであった。インタビューをして父にとって、この言葉の奥深さを知ることができた。またカナダで、「自分の目で確かめることが大事」ということを私自身が体験してきたため、この言葉の重み、大切さをより感じることができたため印象に残っている。
「お話を聞いて、感じたこと、学んだこと」
今まで、留学中のドイツでの日常生活や、当時の私がどのような体験をしたのか、旅行先の思い出についてしか聞いてこなかった。そのため、父の留学について初めて詳しく知る機会となった。インタビューの始めは、普段の父として接していた。しかし、質問を続けていくうちに、教授である父として接していることに気が付いた。それは、父が学問や留学に対して、とても真剣に向き合っていたのだと感じたからである。この留学とともに、私も様々な貴重な文化体験をしていることを学べた。残念ながら、覚えてはいない。しかし、両親が、それらの経験を記憶してくれている。いつか、ドイツ、イタリア、フランスに行く際には、国民性の差を感じて両親の内にある私の記憶から、私自身の記憶にしたいと強く思った。
インタビューアー:熊谷 穂奈美 (社会学部 社会福祉学科 2学年)