インタビュー
成熟社会の本当の豊かさを目指して
松尾 真奈氏
2017年1月31日 1,739ページビュー 1年以上 イギリス 大学院(修士)【インタビューゲスト】 松尾 真奈 さん(農林水産省)
2016年6月24日、都内某所――現在、農林水産省で「木づかい運動」と呼ばれる木材利用を促す広報活動や木育(もくいく)といった教育活動を担当されている松尾真奈さんに、留学体験がどのように現在のキャリアにつながっているのかインタビューさせていただきました。
(熊崎)――イギリスに留学中に日本に興味を持ったということですが、何かきっかけはあったのですか?
もともと英語や海外が好きだったので、大学生になったら長期の留学をしたいと思っていました。
大学に入学して、1年生の時に姉妹都市交流の一環でアメリカに10日間、2年生の時にボランティアを兼ねてフィリピンに1ヶ月留学しました。この頃は日本にはあまり興味関心がなく、できれば将来は海外に関わる仕事に就きたいと思っていました。
大学3年生の時に、イギリスのマンチェスター大学に1年間、交換留学をしました。念願の長期留学でしたが、ネイティブの学生と国際政治について議論しながら学ぶことは想像以上に大変でした。さらに戸惑ったのは、今まで行ったことがあったアメリカやフィリピンと違ってイギリス人はシャイな人が多く、向こうから積極的にコミュニケーションを取りにくるということはありませんでした。そのため、イギリスに行ってすぐに主体的になることの重要性に気づかされました。自分で主張していかないと、そこではいないことになってしまいます。しかし、そんな新しい環境にしっかりと向き合っていくという経験が、次の原動力になっていたんだと思います。
日本に興味を持ったきっかけは、海外で生活してみて日本の良いところを見つけられたということももちろんあるのですが、それより日本はもっとこうした方が良いんじゃないかという考えがでてきたことでした。イギリスにはたくさん美術館があって、私がよく行っていたのは「ナショナルギャラリー」というところなんですが、ほとんどの美術館は無料で入れるんですよ。最初はそれにびっくりして、課題の息抜きによく行っていました。そうした経験を通じて、日本にはこういう「お金で満たされるわけではない、本当に豊かな社会をつくること」が大切なんじゃないかと思ったんです。日本も、このまま経済成長を目指すよりも、もっと足元を見てみんなが幸せを感じられるようにならないかと、自分も日本の発展に貢献できる仕事に就きたいと思うようになりました。
(熊崎)――では、そのイギリスで日本のためになる仕事をしたいと思い、帰国後、現在お勤めの農林水産省を選ばれた理由を教えてください。
イギリスから帰国した後、今度は日本、特に地方についてもっと知りたいと思い、京都府の北部に位置する京丹後市に半年間、国内留学をしました。私が生活することになったのは、京丹後市の中でも10集落・人口約200人の野間連合区と呼ばれる山間にある地域でした。そこでは、明確な仕事があったわけではなかったので、、集落一軒一軒をまわって、おばあちゃんとお話をしたり、お祭りの手伝いをしたりして、積極的に地域のことを知っていきました。また、農作業の手伝いを通じて、農地の重要性や食べ物への有り難みを改めて感じることができました。例えば、農地は毎年きちんと手をかけてあげないといけなくて、一度耕作放棄してしまうとそれを戻すには大変な労力がかかってしまうんです。自分が今まで当たり前に食べてきたものが、こうやって誰かが守ってきてくれたものなのだと気づきました。そして自分も今ある地方の豊かな資源を引き継ぎ、発展させていきたいと思い、農林水産省への入省を決めました。
現在は林野庁木材利用課消費対策班で木材利用を促進する政策の担当をしています。「消費対策班」とは簡単に言うと、一般消費者に対してどうしたら木にもっと親しんでもらえるか、木を利用してもらえるかを考えている部署です。イベントの開催やポスター制作などの広報活動、木育といった教育活動を通じて、木材利用の意義や木材の良さを伝える仕事をしています。
イギリス留学で得た海外からみる日本というマクロな視点と、京丹後市への国内留学で得た地方からみる日本というミクロな視点、両方の視点をもてるようになったことが留学経験を通じて今のキャリアに一番活きていることだと思います。
インタビュー実施日:2016/06/24
インタビューアーからのコメント
●印象に残ったキーワード
・自分の辛さに向き合う経験が次の原動力になった
・今の自分がいるのもこうやって昔から続いてきたものがあるからだ
●今の気持ち、感じたこと、学んだこと
お話ししている中でも、一つの物事に対してたくさんの見方をもたれていることをとても感じました。いま留学に行くにあたって、沢山の壁があり悩んでいたわたしにとって「辛さに向き合う経験」がその後必ず活きていくという言葉にとても勇気をいただくことができました。一度しかない大学生活なので、松尾さんのように自分が興味を持ったことを人に流されずに追いかけられるようにしたいと思いました。
インタビューアー:熊崎優菜(東洋大学1年)