インタビュー
留学の経験は決してマイナスにはならない
米原あき氏
2016年11月11日 1,368ページビュー 4年以上 アメリカ合衆国 大学院(博士)【インタビューゲスト】米原あきさん
(東洋大学社会学部社会学科准教授)
東洋大学社会学部社会学科准教授で、開発途上国の教育政策を専門に研究されている米原あき先生にインタビューしました。米国大学院の博士課程で学ぶため、4年間留学されましたが、この留学経験に関してお話しをうかがいました。
1. 留学をした理由と背景を教えてください。
私は日本の大学に在学している当時、国際公務員を志望していましたが、国際公務員として働くためには留学が必要だと考えていました。英語などの語学力は必須であり、また教育政策を通し開発途上国に貢献するためには統計学などを学ぶ必要があったからです。当時の日本の教育学部には開発途上国と統計学の両方を専門に研究している研究者の方がほとんどいませんでした。そのため、自分の研究テーマと近い学問領域を専攻している大学教員の方を探した結果、アメリカに5人ほどの先生がいらっしゃいました。それらの先生のもとで研究し、学びたいと思い日本の大学院に在籍していた27歳から4年間、アメリカの大学院に留学しました。
2. 留学に関する制度についてお聞きします。
私の場合、アメリカ政府から奨学金で、フルブライト奨学金と呼ばれる資金を得ることができました。アメリカ政府から学費のみならず生活費なども給付される制度です。フルブライト奨学生の出願にはGREやTOEFLのスコア及び研究計画書を提出して合否が決まりますが、かなりの難関でした。
3. アメリカでの留学に関するお話しをお聞きします。
まず、アメリカの大学院は日本の大学などと比較して課題が膨大に出されます。具体的には留学での壁としては英語を理解するのに苦労しましたし、一週間に500ページ以上の課題文献を読み、それに基づいて授業でディスカッションするなど、大変密度の濃いものでした。そのため、私は疲労が原因で病院に運ばれたことがあります(笑)。アメリカの大学院の講義は少人数授業で授業によっては6人程度で、年代もバラバラで同級生には60歳の方もいらっしゃいました。特に大学院の授業で哲学、統計学、比較教育学などの授業がとても印象に残っています。そして、アメリカでの博士課程3年目からは大学教授のアシスタントとして働いていました。これらの経験を通して、研究方法に関する知識も学べたのですが、多様な生き方や考え方についても理解が深まりました。日本の場合は多様性といっても、基本的な価値観が類似しています。アメリカだと多様性が豊かで、人生や生き方についても深く考えることができ、とても良い経験となりました。
4. 帰国後のお話しを伺います。
アメリカでの留学経験を通し、特に博士論文の執筆を経て、国際公務員になるよりも、もっと研究を通じて貢献しなければならないと考えるようになりました。同時に、自分の研究分野における実務経験も必要だと感じていました。そのため、研究と両立できる仕事を探していたところ、帰国後にJICAのODAプロジェクトを手伝いませんかと言う連絡を頂き、その後セネガルでODAのプロジェクトの運営に携わりました。
5. お話しを聞いて気になったのですが開発途上国の研究や教育政策はどちらかというと文系だと思うのですけどなぜ理系要素が強い統計学を学んだのですか?
政策分析するためには統計学が必要だからです。具体的には教育政策を行う際に、例えば成人識字率などのデータ=根拠に基づき、どのように政策を実現し、循環させるかということを検討する必要があります。そのためには一定程度の統計学が必要だからです。特に、社会や政府などに対してデータを用いてある政策の効果や必要性などを説明することにより、根拠のある提言を行うことができるからです。
6. 6ODAのプロジェクト後の経歴を教えてください。
その後、東京工業大学、明治大学、現在は東洋大学の教員として働いています。現在、私の担当している国際社会学の講義には約200人の履修者がいて、またゼミは4つほど持っており、様々な考え方や価値観に日々触れ合いながら学生のみなさんと関わっています。
7. 最後のまとめとして留学の意義を教えてください?
私は、留学の経験は決してマイナスにはならないと考えています。しかし、留学をすること自体を目的にするのではなく、事前に何を研究したいのか、或いはどのような経験を得たいのかなど、留学を通じて達成したい目的についてよく考えて行う必要がありますね。私自身は、特に、アメリカでの留学を通して多様性について学び、現在、大学教員として教えているわけですが、多様性を受け入れ、そこから学ぶという考え方が根本にあり、そのおかげで日々自分自身も成長できているのではないかと感じています。
インタビュー実施日:2016/05/31
インタビューアーからのコメント
私は、米原あき先生の留学の体験談を通して日本の国内では体験できない経験、或いは多様性や価値観に触れ合うことによって広い視野を持つことができると思いました。また、留学をする際に留学費用などの金銭的な負担が大きいのではないかと考えていましたが、フルブライト奨学生のような公的な機関による全面給付型の奨学金などがあり、自分の研究テーマを国際的なグロバールな教養性で学びたい人に対して、機会を提供する奨学金制度なのだと思います。また、学んだこととして、留学を行うことを単に目的とするのではなく、そこから何を得るのかと言うプラスアルファを定め、留学を行うことが留学とキャリア形成に直接的に繋がると指摘されました。今後、国際化が更に進展する中で、語学力はもちろん、国際社会の制度や文化、価値観などに触れ合うことが求められます。こうした中で、グロバールな価値観とのと触れ合う重要な機会として留学が位置づけられます。今後の日本社会の課題として留学を促進するための留学を促進する意義は大きいと考えます。また、給付型の奨学金制度の充実も求められると考えます。
インタビューアー:板垣 裕也(東洋大学2社会3年)