インタビュー
Democracy, Globalization, Diversityのために働く
磯谷 桂太郎氏
2016年11月11日 1,198ページビュー 2年以上 オーストラリア 大学 高校【インタビューゲスト】磯谷 桂太郎さん (文部科学省職員)
学生)まずは自己紹介をお願いします。
2011年4月から文部科学省職員をしておりまして、これまで国会対応、大学関係法令、小・中・高等学校の教育課程など、様々な業務を担当してきました。2014年7月からは行政官長期在外研究員として、カナダのトロント大学大学院で研究を行った後、2016年4月にエチオピアにわたり、ユネスコ・アフリカ地域能力開発国際研究所という国際機関でインターンシップを行いました。7月からは文部科学省に戻り、特別支援教育課という部署で、主に障害のある子どもたちの教育に関する業務を担当しています。
学生)今までの海外経験を教えてください。
父の仕事の関係で、小学生時代、パリに1年半、ロンドンに1年住んでいました。また、高校1年生の夏に1か月間の短期留学に行ったのをきっかけにオーストラリアの魅力にとりつかれ、高校2年生のときに1年間、大学時代にもう1年間、オーストラリアへ留学しました。あとは先ほどお話ししたとおり、文部科学省職員になってからカナダとエチオピアに行っています。
学生)それぞれの留学で楽しかったこと、つらかったことは何ですか?
高校時代の交換留学で楽しかったのは、いろんな国の留学生と交流できたことです。
日本で普通に高校生活を送っているだけだと外国の人と関わる機会は限られてしまいますが、同じAFSという留学団体を通じて世界各地から来ている交換留学生と友達になったことで、世界のいろんな国に目を向けられるようになりました。今までよく知らなかった国も、関わった留学生の友達の存在を通じてより身近に感じられるようになりました。
高校時代に1年間の留学したのは、オーストラリアの小さな田舎町だったのですが、最初の頃つらかったのは、そこで話される英語が全くわからなかったことです。それから、アジア人が少なかったこともあり、人種差別かなと感じるような経験もしました。ただ、決してそういう人たちばかりではなく、優しい人々にもたくさん出会いました。
大学時代は、アデレードという比較的大きな街に留学しました。大学時代に専攻していた政治学を英語で学んだことで新しい視点を得ることができ、知的に刺激的な毎日でした。専門用語を覚えたり、必死に議論についていけるようにしたり、なかなか大変でしたが、このとき、英語という言語を使って、まだ日本語に訳されていない新しい知見を得られる楽しさを知ることができました。
学生)それぞれ留学準備、留学先での勉強内容はどうでしたか?
高校生のときは、留学について明確なイメージを持っていなくて、ただ、英語のレベルを上げること、それから日本のことをもっと知ることという2点を中心に準備しました。特に、留学前のオリエンテーションで知り合った友達と議論しているうちに、自分たちは意外と日本のことを知らないのではないか、と気づくようになりました。留学前、そんな仲間たちと一緒に京都に行ったのもいい思い出です。留学先での勉強内容ですが、田舎の公立高校で、周りのオーストラリア人と一緒に、ごく普通に、英語、数学、化学などの勉強をしました。
大学時代に留学したアデレード大学では、国際政治、オーストラリア政治、哲学、それからフランス語の授業を履修しました。先ほどお話ししたように、英語で政治学の勉強をするのはとてもおもしろかったのですが、英語でフランス語を勉強するというのも新鮮で楽しかったです。
社会人になってから留学したトロント大学大学院では、政治学関係の科目を中心に履修しつつ、多文化主義関係のテーマで、修士論文の執筆を含め、2件の研究を行いました。1つ目は多文化主義に関する各国の認識の違いです。政治の場において多文化主義が語られる際、多文化主義を国の公的な政策として採用しているカナダやオーストラリアと、そうでないヨーロッパ諸国の間でどのような「語られ方の違い」があるのかというようなことを中心に研究しました。2つ目はカナダの多文化主義の成立過程についてです。かつてイギリスの植民地であり、イギリス文化の優越性が自明とされていたカナダがなぜ多文化主義を公的な政策として採用することになったか――そんなテーマについて、弁証法的歴史観という歴史哲学のレンズを通じて分析しました。
学生)留学先での新しい発見は何ですか?
発見というか衝撃を受けたことなのですが、高校時代に1年間留学したオーストラリアの田舎町で、最初、英語が全くわからなかったときはすごく戸惑いました。小学校5,6年生のときにイギリスにいたこともあって、英語の環境で生活したことはあったのですが、オーストラリアの田舎町の英語の発音や表現は、ロンドンの英語のとは全く違うように感じました。ホストファミリーにオーストラリアのスラング辞典を借りて、必死に覚えつつ、がんばって使うように心がけました。
学生)留学をしたことでできた強み、またはリスクは何ですか?
一番の強みは、語学力だと思います。先日まで、エチオピアにある国際機関でインターンシップをしたのですが、責任ある仕事をたくさん任せてもらいました。もちろん、日本で社会人経験をしっかり積んできたというのは大きいですが、英語を使って世界にインパクトを与える仕事ができるんだということは、自分にとって大きな自信になりました。
リスクというわけではないのですが、これだけ留学する機会をいただくなかで、自分以外の人たちに対する責任感を強く感じるようになりました。留学を通じて自分が成長できたのは、留学先のホストファミリー、高校や大学の先生など、留学生活を支えてくださったたくさんの方々のおかげだと思うのです。支えてくださった方々に対する責任を果たす、これからそんな仕事をしていかないといけないと思うのです。
学生)留学体験はその後のキャリアにどのように影響しましたか?
留学先のオーストラリアで出会った「多文化主義」という考え方は、私自身のライフワークになったテーマです。
高校時代、まだオーストラリアの生活が始まって間もない頃、知り合いのオーストラリア人のおじさんが「オーストラリアという国は世界中からいろんな人が来て成り立っているんだよ」と話してくれました。多様な文化的背景を持つ人々が世界中から集まり一つの国を形成していることに感動を覚えるとともに、なぜそれが可能なのかを知りたいと思うようになりました。そんなとき知ったのが、一つの国に様々な文化が共存することを公的な文化として積極的に認めていく「多文化主義」の考え方です。
私は、日本が多文化主義を公的な政策として採用するべきと主張するつもりはないのですが、多文化主義の考え方から学ぶべきことはたくさんあると考えています。特に、日本は国内のグローバル化が不十分だと思っています。外国人と一緒に勉強したり、仕事をしたりする機会はまだまだ限られているし、多くの人がその状況に甘んじているように思います。これは、ある意味、精神的に鎖国しているような状態で、日本の将来を考えたときにすごく不利だと思います。いろんな文化的背景を持つ人々が存在することを強みだと捉えつつ、多様性に対応する社会を作り上げていくことが今後の日本にとって重要な課題だと思います。私なりにできる方法で、日本がもっとグローバル化に対応していくのに貢献したいと思っています。
私は大切にしているコンセプトが三つあって、一つ目は今申し上げた、いかに日本社会をグローバル化させていくかというグローバリゼーション、二つ目はいかに多様性を受容する社会を作り上げていくかというダイバーシティ、そして三つ目はいかに日本をもっと民主的な社会にしていくかというデモクラシーです。こういうふうに思うようになったのも留学のおかげだと思います。
三つ目のデモクラシーについてですが、自分の国のあるべき姿を熱く議論するオーストラリア人たち、自国のアイデンティティを問い続けるカナダ人たちの姿を見ることで、私自身、「民主主義って何なんだろう」という問いを真剣に考えるようになりました。
私は、民主主義を単に選挙で一票入れることだけに矮小化するべきではないと思っています。民主主義というのは結局、政治と自分との関係性を問うことであるし、その関係性のなかで未来の社会を想像しつつ、そこにどのようにコミットしていくかということだと思います。一人一人が自立した社会の構成員として社会形成にコミットしていくことで、ようやく民主主義は守られると思っています。
もちろん間接民主主義というのも民主主義の一つの重要な形態なのですが、それでも一票を入れたからあとは政治家に任せっきりというのでは、本当の意味での民主主義とは言えないと思います。みんなの間の問題を一緒に議論をして、それを変えていくためにはどうしたらいいのかという具体的かつ建設的なアクションを起こしていくことが大切なのではないでしょうか。
私の場合は、教育行政の分野でそのお手伝いができればと考えています。社会形成のためにコミットしていくという意味で、民主主義の重要性をもっと多くの人に知ってもらうと同時に、実際にそういう社会にしていくこと、そんな思いを持ちつつ仕事をしていきたいと思っています。
インタビュー実施日:2016/07/10
インタビューアーからのコメント
・お話を聞いて、感じた事、学んだ事、今の自分と繋げて、思うこと。
ちょうどインタビュー日に選挙に行ってきましたが、自分は候補がどんな政策を実行しようとしているのかまでは考えずに政党と名前だけで決めていました。磯谷さんの民主主義に対する考え方を聞いて今の自分の考えでは不十分だと思いました。
私も留学を通じて他の国の視点を持って新たな目標を見つけられることを目指して留学に行こうと思います。
インタビューアー:K.T(東洋大学 経済学部 1年)