インタビュー
留学で得た知識・経験・思考を日本の医療の未来へ!!
隈丸加奈子氏
2016年8月31日 3,528ページビュー アメリカ合衆国 大学院(修士)【インタビューゲスト】隈丸加奈子さん
(東京大学医学部卒。医学博士。ハーバードメディカルスクールにて客員研究員ののち、AssistantProfessor。現在は順天堂大学医学部放射線科准教授)
三児の子育てをしながら、医師として研究者として最前線で活躍されている隈丸先生。その人生のターニングポイントであった留学に至るきっかけや留学で得た新たな視点を伺いました。
(学生)__留学のきっかけは何ですか。留学のきっかけは主人の留学が決まって、そのタイミングで入籍をしたからなんです。
主人がハーバード公衆衛生大学院の修士課程に入ることになって、自分は東大の博士課程にいました。4年間の博士課程のうち2年間は他の大学で研究することが許されていたので、主人が行くならということでハーバード大学ので研究室のうち受け入れてくれるところを見つけました。
(学生)__アメリカではどのような研究をなさっていたんですか。
患者さんの心臓のCT画像を使って、被ばくがどうやったら少なくなるのか、綺麗に撮れるのかを研究していました。あとはいろんな患者さんに検査を適切に提供できるような体制についても研究していました。
(学生)__ご主人がいなくても留学しようとは思っていましたか。
具体的には考えてなかったので、結婚はいいきっかけになったと思います。振り返ってみて、私としてはベストなタイミングでした。留学って本当にタイミングが大事です。女性の場合は大学から結婚するまでの間が一番自由に動けるタイミングだと思うんです。子供ができると旦那さんについていくことはできても、自分も学ぶ環境に身を置くのは結構難しいです。今子供が三人いて旦那も仕事をしている状況を考えると、家庭をひき連れての留学は難易度が高いなと思います。
(学生)__隈丸先生は留学中にお子さんを産んだのですか。
海外で2人産んで、日本に帰ってきて1人産みました。でも留学中の出産はおすすめです。絶対いいと思います。産休育休中や乳幼児育児期間ってどんなに頑張ってもキャリアの停滞になってしまって、その期間がキャリアにプラスになることはそうそうないんですけど、留学はそれが可能になります。医者の場合は日本にいると臨床もやらなければいけませんが、留学中は研究に専念できたのも良かったです。子育てにも寛容であり、育児自体もしやすい環境でした。
(学生)__留学に行く前は海外経験はありましたか。
大学6年生になる直前にミネソタ州にあるメイヨークリニックに一か月。そのあとニューヨークの麻酔科に一か月行きました。
(学生)__語学力には自信は?
全くなくて、今回の留学も二年近くたってようやく喋れるようになりました。度胸がついて喋れるようになっただけで、実際使っているのは中学生レベルの文法でした。口に出して度胸を付ける勉強をしたらいいと思います。外国人を前にすると日本人は声が出なくなることが多いので。2年目からしゃべるのが怖くなくなったのは、教えるようなポジションになったこともありました。英語を使って絶対に何かを伝えなきゃいけない状況になると、必然的にしゃべるようになります。
(学生)__勉強は大変でしたか。
私の場合は授業を取ったり宿題があったわけではないので、それほど大変ではありませんでした。学生として授業を受けながら子育てをしている人は本当に大変そうでした。子供がいて家で宿題をするのは難しいですね。
(学生)__留学中に変化したことはありますか。
留学して少し研究分野を変えました。きちんと指導してくれるボスがいる研究室を選んだからです。私の選んだボスは非常に面倒見がよく、私のキャリアアップについてもポジティブだったので、非常に有意義でした。あの時ボスの選択を間違っていたら5年半を有意義に過ごせなかったと思います。
留学する前に日本の上司に言われたことですが、興味がある分野を多少変えてでも、ちゃんとしたボスがいる研究室を留学先に選んだほうがいいと思います。留学生は現地のボスのサポートなしには自分を生かすのが難しいです。若い頃の興味って時に浅はかなので、あまりこだわりすぎず、門戸を広げて、良い環境を選んだ方がいいと思います。
(学生)__ボスは子育てにも理解があったのですか。
非常に協力的でした。乳児が居る男性に対しても積極的に勤務時間調整をしていました。
(学生)__アメリカのほうが日本よりも男性は子育てに対して協力的ですか。
日本も協力的になっているけど、やはりアメリカのほうが寛容だと感じました。
(学生)__女性の教授も多いですか。
多いですね。日本も長時間労働を是正して、もっと女性の管理職が増えるといいなと思います。
(学生)__アメリカでの出産に不安はなかったのですか。
アメリカで出産する日本人をサポートする団体があり、非常に助かりました。日本人同士での支えあいが不安を解消してくれました。日本にいたら日頃知り合えないような日本人ともコネクションを作れたのもよかったです。
(学生)__留学を通してどのようなことを得ましたか。
留学して、日本の良さと足りないところ、両方を理解できました。実際に目で見て初めて分かることがありました。足りないのは、発信力と人に頼る能力だと思います。日本人は自分であれこれやらなければならないと思ってしまいがちです。アメリカ人は人に頼ることが非常に上手で結果的に組織としての完成度の高さやスピードにつながっていると思いました。
(学生)__留学で得たことをどのように生かしたか、また、生かしていきたいかについて教えてください。
日本の良い面をのばして、足りないところをみんなに伝えるようなことをしていきたいと思っています。
放射線科領域では、具体的には、日本はCTやMRIの画像のクオリティは非常に高く、それが広く達成されている点がすばらしいと思います。一方、本当に必要な検査が必要な時に施行されているのかという検討は充分でないことも多いです。その検討が充分になされるような取り組みを日本でできたらいいなって思って、去年の1年間、少しそういう研究や活動を行ってきました。主導するまでは至っていないので、火付け役程度なんですけど。
(学生)__この授業では、自分の将来を具体的にイメージするように言われていて、そこから自分の今後のキャリアを考えているので、両立に関していろいろな話を聞きたいです。
両立を議論するときに大事なのは、両立をどう定義するか、だと思います。そして、それは人によって違います。その人がすごく満足していれば、それは完全なる良い両立です。
まずは、自分がどのような両立を目指すのか、どのバランスが一番幸せなのかを見極めて、それをどう達成するかを考えることが大事です。
(学生)__先生は仕事と家庭はどれくらいの割合ですか。
今の私は仕事6家庭4くらいです。平日五日間働いて、週末と夜は基本的には仕事はしません。そのライフスタイルには結構満足しています。子供がもう少し大きくなったらまた変わると思いますが。
(学生)__ベビーシッターって雇っていますか。
雇っています。フルタイムではなく、急な熱が出たときなど、臨時で。
(学生)__アメリカとかはベビーシッターが普通に活用されていますよね。
私が居たボストンは普通の保育園がすごく高かったです。2人の子供を週5日間預けるために月40万払っていました。クオリティは日本と同等か、日本の方が少し高いくらいだと思うのですが。なので、少し安いベビーシッターの需要は高かったと思います。
(学生)__隈丸さんはキャリアの両立のことを大学生の頃から考えていたんですか。
大学生の時はあまり考えていませんでしたね。一つ転機になったのは、医者になって専門の科を選択するときです。放射線科と、もう一つものすごく忙しい科の間で選択を迷っていたとき(当時から付き合っていた)主人に、家庭を築くイメージができているのかって言われました。それが初めてかな。それまでは、キャリアに向かって進むのが当たり前だと思っていて、そこに家庭が入り込むことを実感していませんでした。
あとは主人の留学について私も留学するっていう選択も両立のための選択の一つでした。一緒にいるために、自分の大学院のテーマをちょっと変えてでも留学する決断をしたのは、少し家庭を優先した選択とも言えます。
両立するために配偶者選びも大事だっていわれるんですけど、自分が好きな人、自分のことを好きでいてくれる人を選んで、その人を変えていく方が楽だと思いますよ。
(学生)__英語の勉強はどんなことをされていましたか。
しゃべる勉強は、留学前に英語の先生に一対一で週1回習いました。あとは、TOEFLです。ネット講座を利用して仕事の合間に勉強しました。アメリカに行ってからも外国人向けの英会話教室に通っていました。でも一番大事なのは度胸で、しゃべるためには練習が必要ですね。
(学生)__奨学金は利用したんですか。
最初の年はなしで、2年目からは現地雇用、その後学術振興会の海外特別研究員になりました。その後はまた教員として雇われました。奨学金はないよりはあった方がいいと思います。
(学生)__今20歳前後で両立について何ができるでしょうか。
やっぱり考えることでしょうね。ロールモデルがあるといいと思います。自分の分野でこの人みたいになりたいっていうのがあるとすごくいいですね。
留学をお勧めするかしないかっていうと、100%お勧めします。月並みな言い方ですが、やはり視野が広がり、日本にいては見えないものが見えると思います。
(学生)__いつがいいとかありますか。
次第に留学できる機会が女性の場合は制限されることが多いので、できるときにしたら良いと思います。私は研究留学でしたが、ディグリーが取れる留学はまた別の魅力があると思います。
海外在住経験だけでも、プラスです。現地での生活だけでも、素晴らしい人生経験になります。でもせっかくだから何か学問を学べたり、研究できたりする機会があるといいですね。
インタビューアーからのコメント
これまで両立とは誰から見てもすべてのことを完璧にこなすことだと考えていたのですが、自分なりに両立できていることが大切だとわかり、私は人からの評価ばかり気にしてい たのだと気づかされました。大学や社会では他人と比べられることが多いですが、そのよう な環境でも、自分と向き合い、自分は何をどうしたいのか、人に流されない自分なりの両立 の定義を持つようにしたいと思います。
そして、隈丸さんには留学で得られたことを日本の人に伝えていく目標があると聞いて、 自分の成長だけで満足せずそれを周りの人にも共有することのすばらしさ、大変さがわか りました。そのためにはまず、自分が得たことを深く理解していなければならないと思いま す。私も隈丸さんのように自分、そして周りにも目を向けられるよう努力しようと思いまし た。
隈丸さんのインタビューを通して、私自身を型にはめようとしすぎていることに気が付 きました。研修医期間を終えたあとを考えると留学が億劫になるという不安を抱えていた私にとっては、留学のプラスの面が見えなくなっていました。隈丸さんが留学、子育て、仕 事を両立しているのは、常に物事をポジティブに捉えているからだと思います。子育てに関 しても、仕事で手一杯の中で何を優先すべきなのか子供を持って、より明確に見えるように なった、また、研究内容の変更もよりよいボスと仕事ができるのならばと変えてみて結果的 に成功だったと、仰っていました。隈丸さんから出る言葉は全てポジティブな印象を受けま した。やはり、留学を成功させるには、自分の選んだ道をポジティブにとらえて行くことが 必要であることを学びました。私も自分自身に固執せずに、よいボスを選び、キャリアを積 み重ねていきたいと思いました。 パワフルで知的な隈丸さんのようになりたい。私のロールモデルは隈丸さんになりました。
インタビューアー:南部歩乃佳 (東北大学 歯学部 歯学科 1年)