インタビュー
宇宙の最大の問題は皆が宇宙を夢と考えていることだ。
袴田 武史氏
2016年8月31日 2,522ページビュー アメリカ合衆国 大学院(修士)名古屋大学工学部に入学し、航空宇宙工学コースへ進学。卒業後アメリカのジョージア工科大学大学院へ留学し、修士号を取得。帰国後、コンサルティング会社に入社。2010年、民間初の無人月面探査を競う『Google Lunar XPRISE』にボランティアとして参加。当初日欧混成チームとして活動していたが、2013年欧州チームの撤退を受け、現在は日本単独のチーム『HAKUTO』として活動中。運営母体であるispace社の代表として日本の民間宇宙開発をリードしている。
―留学しようと思ったきっかけは何ですか?
まずは留学に至る経緯を伺ってみた。「留学を考え始めたのは大学3年の秋頃で、それまでは留学なんて考えたこともありませんでした。この頃、私は航空宇宙工学を専攻していたのですが、日本での宇宙工学はそれぞれの分野に対して細かく研究されており、私の研究したいものはもっと大きなもので、日本で行われている研究とは少し違ったんです。その時に、留学という考えが頭に浮かんできました。」はっきりとした目的を持って留学されたことが伝わってきて、その強い意識が今の袴田さんを作り上げたのだと感じた。具体的な目的を持つことで、何かを得ることができるのだろう。
―なぜジョージア工科大学に留学しようと思ったのですか?
アメリカ合衆国には、航空宇宙を勉強できる大学がたくさんある。その中でなぜジョージア工科大学なのか伺った。「私は日本で行われているような専門的な研究ではなく、もっと幅広いシステムを研究しようと思って留学しました。ジョージア工科大学では次世代航空宇宙システムの概念設計手法という私が学ぼうとしていた分野があり、ここに留学しようと決めました。」日本ではできない勉強があるという概念が私にはなかったので、とても新鮮だった。留学は、語学のためだけではないのである。
―留学までの準備の段階で苦労したことはありますか?
私の場合は割と楽観的に考えていたので準備段階ではそれほど苦労しませんでしたね。(笑)ただそのおかげで留学が始まってからは随分と苦労しました。」私はこの発言を聞いて驚いた。もし私が留学することになれば私はたくさんの不安に押しつぶされるだろうからである。袴田さんのように物事を楽観的に捉えることが成功へと繋がるのかもしれない。しかし、袴田さんも言うように現地での苦労は大きかったらしい。そのことについて詳しく伺ってみた。
―アメリカでの生活の中で一番苦労したことは何ですか?
やはり英語です。私は日本にいる間は語学に力を入れていなかったのでアメリカに着いたばかりの頃は周りの人が何を喋っているのかまったく理解できませんでした。(笑)
現地で生活し始めてからも、語学学校に通ったりクラスメイトに助けを求めたりしたのですが英語はなかなか上達しませんでした。あと、現地でとても驚いたことがあったのですが、研究室内のグループで旅客機を設計するという課題があり、この設計が終わった時に教授に言われたのが「その旅客機は今のマーケットで売れるか?」ということでした。日本では自分たちの行っている研究が市場でいくらで取引されるかなんて考えないと思うんですよ。この時、驚くと同時にビジネス面の重要さを痛感しました。」やはり留学する上で言語の壁は乗り越えなければならないと改めて感じた。しかしそれ以上に「その旅客機は今のマーケットで売れるか?」という言葉が強く頭の中に響いた。袴田さんが言うように、この考え方は日本ではあまり考えられない。世界には様々な考え方、視点をもつ人や文化が存在し、それらに触れることは自分の価値観を広げることに繋がるのだと思う。
―なぜコンサルティングを学ぼうと思ったのですか?
航空宇宙の分野で生きてきた袴田さんが、なぜコンサルティング会社に入社したのか、率直に伺ってみた。「留学を通してビジネス面について考えさせられ、これからの宇宙工学は工学的な要素だけではいけないと思ったことが発端です。自分がエンジニアである必要はない。日本には技術者はたくさんいるが、それを支援し、お金を調達して、まとめる人がいない。自分の夢を実現するには、私はそのエンジニアに場所を提供する人になろうと思い、マネジメントする側に回りました。その為にまずはコンサルティング業務を通して、経営の近いところで修行しよう思ったんです。」袴田さんは自分の夢を叶える1つの手段としてこの道を選んだのだ。先を見通して夢への手段を見つけることはそう簡単にできることではないと思う。自分の夢を叶えるための戦略的な人生設計をしていこう。
―海外の大学院へ行くか悩んでいるのですがどう思いますか?
少し個人的な質問であったが、今の私たちにとってとても身近な話題だったので伺ってみた。「海外へ行くということが必ずしも良いとは限りませんし、それぞれの人の立場によって意見も違うと思います。私は留学を通して日本では得ることのできないものを得てきましたが、今後大事なのは世界中のトップレベルの人と競うことのできるスキルを手に入れることだと思います。留学はあくまでもそのきっかけを得る為の手段です。様々な立場の人の意見を聞いてじっくり悩んでください。」手段としての留学。トップレベルの人と競うことのできるスキル。留学をするかどうかというより、私たちがこれから生きていく上で何が必要なのか、考えさせられた。自分の未来を決める選択肢は1つじゃない。
―これから留学を考えている学生達へメッセージをお願いします!
日本というのは限られた地域で生活しているせいかグローバルな発想を持てていない気がします。せっかくいいものを持っていて、チャンスがあるというのにそれを逃してしまうのはもったいない!是非、自分の興味に素直に従い、積極的に行動していってほしいです。
インタビューアーからのコメント
私たちは、将来、航空宇宙産業で働くことを志している。袴田さんは日本の民間宇宙開発をリードする宇宙の第一人者であり、私たちはインタビューが始まる前からとても緊張していた。しかし実際に袴田さんに会ってみると、とても気さくな方で喋りやすく、私たちの緊張は自然とほぐれていった。表題の「宇宙の最大の問題は皆が宇宙を夢と考えていることだ。」は、私たちが宇宙について質問させて頂いたときの袴田さんの言葉である。少し前までは人が宇宙へ行くなんて考えられなかったことであり、宇宙は夢物語のような世界だったと思う。しかし、袴田さんは言う。もう宇宙は当たり前の世界になりつつあると。私たちはこの言葉がとても印象に残り、袴田さんの言う世界が訪れることを強く信じている。
インタビューアー:小仲 美奈 (東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 航空宇宙コース 3年)、平田 光明 (東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 1年)、白石 尚也 (東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 1年)、森 瑛梨奈 (東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 1年)